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保育士が知るべき処遇改善等加算とは?目的から問題点まで徹底解説

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保育士における最近のイメージには、「給料が少なそう」や「キャリアアップできない」と考えている方もたくさんいます。たしかに保育士や介護士などの福祉事業における給与は、全国的にも低い水準となっているところも多いです。

しかし、保育士が少しでも長く働けるように国は「処遇改善等加算」というしくみを用意しています。

このしくみをしっかりと理解しておけば、保育士は給料が少なくてキャリアアップしにくいという間違った考えは払拭されるでしょう。

そこで今回は、保育士の給与やキャリアに大きく影響する処遇改善等加算について詳しく解説していきます。

また、記事の後半では「処遇改善等加算」におけるよくある質問にも答えていきますので、ぜひ参考にしてみてください。

1.処遇改善等加算とは?

名称のとおり保育士が長く働いていくために給与やキャリアなどを含めた「処遇」を改善させるための制度です。

これまでは、保育士になったとしても給与を上げるために昇進したいと思っていても次のキャリアが「主任保育士」のみでした。ちなみに主任保育士へ昇進するためには、平均勤続年数が21年となっています。

そのため、多くの保育士が次の役職へ就く前に退職もしくは転職をしてしまうことがほとんどだったのです。

さらに保育士の仕事は、預かっている子どもたちの世話だけでなく多くの事務作業や各種イベントの企画・準備などさまざまな業務を短期間に行わなくてはなりません。

その結果、残業時間も増え、給与に対して業務の量がとても多く「割りに合わない」と感じてしまう保育士が多くいました。

このような実態が日本全国で起こっていたため、2017年に保育士の処遇改善を図るための制度として「処遇改善等加算」が新たに新設されたのです。つまり、この処遇改善等加算という制度は、保育士が少しでも働きやすく長い期間勤務できるようなしくみとして作られました。

2.処遇改善等加算は2種類ある

保育士の働きやすい環境づくりとして作られた処遇改善等加算は、大きく2種類に分けられます。

  • 処遇改善等加算Ⅰ
  • 処遇改善等加算Ⅱ

名称自体はそこまで大きな違いはありませんが、各制度に対象となる方や実施目的は全く違うのです。

以下では、処遇改善等加算Ⅰと処遇改善等加算Ⅱの制度内容と目的について詳しく説明していきます。

2-1.①:処遇改善等加算Ⅰ

処遇改善等加算Ⅰは、保育士ごとの経験年数に応じて給与アップが期待できる制度です。さらに適用される対象は「全職員」となっているため、正社員だけでなくパートや非常勤として勤務される方も対象となります。

また、給与アップの仕方については「①基礎分」「②賃金改善要件分」「③キャリアパス要件分(②に含まれる)」の3要素をもとにして計算され、加算します。

それぞれの要素における詳しい概要は、以下の表を参考にしてください。
【処遇改善等加算Ⅰを構成する3要素と加減率】

加算要素 内容 加減率
基礎分 1人あたりの平均経験年数に応じて加算率が決定 2〜12%加算
賃金改善要件分 賃金改善及び実績報告を提出し、基準年度から賃金改善を行っている施設に加算 基本は5%加算。平均経験年数が11年以上のときは6%加算
キャリアパス要件分 勤務内容に応じた勤務条件・賃金体系、資質向上に向けた研修実施または機械の確保をしている施設 満たしていないと賃金改善要件分から2%減

また、加算される賃金のイメージとしては以下のとおりです。

平成 30 年度 子ども・子育て支援新制度 市町村向けセミナー資料

引用:平成 30 年度 子ども・子育て支援新制度 市町村向けセミナー資料 内閣府子ども・子育て本部

上図からもわかるように処遇改善等加算Ⅰがしっかりと適用されると、勤続年数が長くなればなるほど加算率が上昇していくので徐々に待遇も改善されるようになっています。

2-1-1.処遇改善等加算Ⅰの目的は「賃金改善」

処遇改善等加算Ⅰのしくみからもわかるように処遇改善等加算Ⅰの目的は、保育士の賃金改善が目的です。

先ほども述べたようにこれまでの保育士は、役職自体は保育士・主任保育士・園長の3つしかなく、なかなか給与が上がらないという状況が10年以上も続いてしまいます。

しかし、処遇改善等加算Ⅰによって保育士としての経験年数が増加していくごとに加算されていくので、保育士はこれまで以上に長く勤務できるようになるでしょう。

ただし、加算率は平均経験年数が11年以上を境に横ばいになってしまうので、経験年数による加算率だけを頼るのではなく、これから解説する「処遇改善等加算Ⅱ」もうまく活用していくことが重要です。

2-2.②:処遇改善等加算Ⅱ

処遇改善等加算Ⅱは、保育士から主任保育士までの間に「副主任保育士」「専門リーダー」「職務分野別リーダー」などの中間となる役職を設けることで、給与に追加加算をする制度です。

この処遇改善等加算Ⅱの特徴としては、処遇改善等加算Ⅰとは異なり保育士が特定の研修を修了することで、新たな役職に就くことができるシステムになっています。

したがって、処遇改善等加算Ⅱの対象は職員全員ではなく以下の方が対象です。

役職 条件
副主任保育士等 概ね7年以上の経験を有する者。キャリアアップ研修を4分野修了済み
職務分野別リーダー等 概ね3年以上の経験を有する者。担当分野のキャリアアップ研修を終了済み

また、加算される額は副主任保育士や専門リーダーは、月額4万円が追加され、職務分野別リーダーは月額5,000円が人件費として追加されます。

配分方法の見直し

引用:平成 30 年度 子ども・子育て支援新制度 市町村向けセミナー資料 内閣府子ども・子育て本部

2-2-1.処遇改善等加算Ⅱの目的は「キャリアアップ」

処遇改善等加算Ⅰの目的は賃金改善でしたが、処遇改善等加算Ⅱを実施する大きな目的は「キャリアアップ」です。

先ほど解説したように保育士と主任保育士の間に中間役職を新たに作ることで、保育士一人ひとりの技術や専門知識の向上を図ることが狙いになっています。

そのため、職務分野別リーダーや副主任保育士にキャリアアップするためには、あらかじめ定められた研修を修了することが必要です。つまり、次の役職へ就くためには勤続年数だけでなく十分な技術と知識を兼ね備えた人材になることが重要になるでしょう。

加えて、処遇改善等加算Ⅱを利用して新たな役職へ就いた場合、肩書きだけでなく賃金も追加で加算されるので、保育士として賃金やキャリアに悩んでいる方はぜひ処遇改善ⅠとⅡを大いに活用することをおすすめします。

3.処遇改善等加算のしくみにおける問題点2つ

ここまで処遇改善等加算のしくみから保育士が活用すべき理由まで解説をしました。しかし、処遇改善等加算も万能というわけではありません。

とくに処遇改善等加算をこれから活用していきたいと考えている方は、以下の問題も頭に入れたうえで利用するようにしましょう。

3-1.手続きをするのは個人ではなく保育園側

まず1つめの問題は、保育士のキャリアや賃金に大きく影響する処遇改善等加算を申請するのが事業者側つまり保育園側が国や自治体へ申請する点です。

なぜ申請者が保育園側だと問題になるのかというと、仮に個人が申請できる制度であれば確実に処遇改善手当として制度を活用できます。しかし、保育園側が申請するとなるとしっかりと処遇改善手当を申請しているかどうかを保育士は確認できないのです。

そのため、保育園側は処遇改善等加算を申請して交付を受けていても保育士の賃金へ還元していない実態が実際に起こっています。

とくに決定的となったのが、会計検査院が全国の6098施設を選んで2016年度〜2017年度に交付された加算の使用状況を調べたところ交付額の約7億円が保育士の賃金上乗せとして還元されていないと報じられました。

加えて、それぞれの施設へ「なぜ、賃金に上乗せをしなかったのか?」と尋ねられるとほとんどの施設が「失念していた」と回答したそうです。
参考:保育士の賃金加算7億円使われず? 会計検査院指摘|日本経済新聞

このように処遇改善等加算という制度は、中身こそ保育士にとってとても良いものですが、保育園側と保育士でしっかりとコミュニケーションをとっておかないとせっかく国が用意した制度を利用できる機会を失ってしまう可能性もあります。

したがって、保育園にすべて一任するのではなく保育士も処遇改善等加算のしくみや申請方法まである程度は知っておくことが大事です。

3-2.十分な研修時間を確保できない

2つめの問題点は、処遇改善等加算によるキャリアアップなどで必要となる「研修時間」を十分に確保できないケースもあるという点です。

前述しているように保育士が処遇改善等加算Ⅱを利用してキャリアアップするには、自分が担当する1分野もしくは副主任保育士であれば4分野以上の研修を修了する必要があります。

各役職によって研修時間は異なりますが、約15〜60時間ほどの時間を確保すること必須です。

しかし、保育園によっては人材不足によってギリギリの対応を行っていたりするので、このような状況にある場合は業務量が多くなり、研修に参加するどころではなくなってしまいます。その結果、通常の業務で手一杯になり一向にキャリアアップができないという状況に陥ってしまうのです。

この問題の解決策は保育士にとっては一番難しく、研修時間の確保や調整は保育園自体の状況が大きく影響します。したがって、いくら頑張っても全くキャリアアップのための研修時間などを確保できないのであれば、少し余裕がある別の保育園へ転職することも立派な選択肢でしょう。

転職するまでではないということであれば、一度保育園側とよく話し合ってみることをおすすめします。

4.処遇改善等加算についてよくある質問

処遇改善等加算についてよくある質問

最後に今回解説した処遇改善等加算についてよくある質問に答えていきます。

4-1.Q:パートや派遣社員でも対象になりますか?

A:正社員以外の雇用形態でも対象になります。

処遇改善等加算では、正社員だけでなくパートや派遣社員で勤務している方も対象です。したがって、パートや派遣社員だから加算されないということは決してありません。

しかし、前述しているように処遇改善等加算Ⅰは「全職員」が対象となっていますが、処遇改善等加算Ⅱは各保育士のキャリアアップが目的のため、対象が保育士の経験年数や現在の役職によって異なります。

つまり、処遇改善等加算Ⅱに関しては一概に全職員が加算対象になるとは限りませんので、その点だけご注意ください。

4-2.Q:キャリアアップ研修は転職・休職した場合はもう一度受け直すのでしょうか?

A:すでに修了している研修は受け直す必要はありません。

キャリアアップ研修は修了すると必ず「修了証」が交付されます。この修了証は全国どこでも使用できるものなので、転職・休職・退職したからといって効力を失うことはありません。万が一、修了証を紛失してしまっても日本保育協会研修部へ問い合わせをすれば、事務手数料1,100円で再発行することも可能です。

ちなみに研修する分野によっては保育士としての経験年数が定められているものもありますが、転職などをする際に「在職証明書」を発行しておけば職場を変えても経験年数は途切れず継続されるので覚えておきましょう。

4-3.Q:どこの保育園でも処遇改善等加算は受けられますか?

A:認可保育園・認定こども園・幼稚園・企業主導型保育事業で受けることができます。

処遇改善等加算については、基本的にどこの保育園でも受けることが可能です。しかし、あくまでも処遇改善等加算は「補助金」にあたります。

つまり、認可外保育園の場合は受けられない施設もあるということです。ただ、認可保育園の中でも企業主導型保育事業であれば、現時点で処遇改善等加算が支給される施設になっています。

さらに処遇改善等加算については国から支給されるものと、各自治体独自行っているものがあるので地域によっては支給対象の施設が異なる場合もあるでしょう。

5.処遇改善等加算は保育士の給与とキャリアに関わる重要事項!

今回は処遇改善等加算のしくみから現時点での問題点まで解説をしました。

本文でも述べましたが、処遇改善等加算は保育士にとって賃金アップや今後のキャリアアップに関わる非常に重要な制度です。申請するのは保育園側ですが、当事者である保育士がこの処遇改善等加算について十分な知識を持っておく必要があります。

また、知識として知っておくことでもし保育園側の不正があったとしても適切な対応ができるようになるでしょう。

そのためにも、今回解説した処遇改善等加算のしくみと問題点はしっかりと覚えておいてください。

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